日本国憲法と基本的人権 / 精神の自由と身体の自由

身体の自由と刑事手続き上の権利

要点整理

日本国憲法は、国家権力による恣意的な逮捕・処罰から個人を守るため、18条から40条にかけて、刑事手続きに関する詳細な人権規定を置いている。この分野は条文数が多いため、「どの条文が何を保障しているか」を対応づけて正確に覚えることが最大のポイントになる。

奴隷的拘束及び苦役からの自由(18条)

18条は「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」と定める。これは、人間の尊厳を否定するような身体の拘束や強制労働を禁止する規定であり、身体の自由の出発点として位置づけられる。

適正手続きの保障と罪刑法定主義(31条)

31条は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と定める。これは、刑罰を科す際の手続きが法律で定められていなければならないという適正手続きの保障(デュープロセス)の規定であるとともに、どんな行為が犯罪となり、どんな刑罰が科せられるかは、あらかじめ成文法で規定されていなければならないという罪刑法定主義の根拠規定の一つともされている。罪刑法定主義は、何が犯罪になるかを事前に明確にすることで、国民の行動の予測可能性を確保し、国家による恣意的な処罰を防ぐことを目的とする。

逮捕・捜索・押収と令状主義(33条・35条)

身体を拘束する際には、原則として裁判官が発する令状が必要とされる(令状主義)。33条は、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲(裁判官)が発する令状によらなければ逮捕されないと定める。35条は、住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利を保障し、捜索・押収には、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所及び押収する物を明示する令状を必要とすると定める。「令状が常に必要」ではなく、現行犯逮捕には令状が不要である点に注意する。

拷問及び残虐な刑罰の禁止(36条)

36条は「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」と定める。「絶対に」という文言が示すとおり、公共の福祉を理由とする例外も認められない禁止である。

黙秘権と自白の証拠能力(38条)

38条1項は、何人も自己に不利益な供述を強要されないと定め、これが黙秘権の根拠となる。さらに38条3項は、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科されないと定める(自白のみでは有罪にできないという、補強証拠の必要性)。これは、強制・拷問等による虚偽の自白を防ぎ、えん罪を防止するための規定である。黙秘権は「黙秘すれば無罪になる」という意味ではなく、あくまで「不利益な供述を強要されない」権利である点に注意する。

遡及処罰の禁止・二重処罰の禁止(39条)

39条は「何人も、実行の時に適法であつた行為……については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない」と定める。前半部分が、実行時に適法だった行為を後から作った法律で処罰することを禁じる遡及処罰の禁止(事後法の禁止)であり、後半部分が、同一の犯罪について確定判決を経た後に重ねて処罰されない**二重処罰の禁止(一事不再理)**である。二重処罰の禁止は「一つの事件で複数の罪に問われない」という意味ではなく、「同一の犯罪について、確定判決の後に重ねて刑事責任を問われない」という意味である点に注意する。

再審制度

再審制度とは、有罪の判決が確定した後になって、無罪を言い渡すべき明らかな新証拠が見つかるなどした場合に、確定した判決をやり直す制度である。いったん有罪が確定しても、それが誤りであった可能性が示された場合に救済する仕組みであり、えん罪から個人を守るための重要な制度となっている。

犯罪被害者基本法(2004年制定)

これまでの刑事司法制度は、被疑者・被告人の人権保障に重点を置いて整備されてきた面が大きかった。これに対し、犯罪の被害者やその家族の権利・利益を保護するため、2004年に犯罪被害者基本法が制定された。同法の理念のもとで、被害者参加制度をはじめとする、被害者の権利を具体化するための制度整備が進められている。

身体の自由に関する条文の整理

条文 内容
18条 奴隷的拘束・苦役からの自由
31条 適正手続きの保障(罪刑法定主義の根拠)
33条 令状によらない逮捕の禁止(現行犯を除く)
35条 令状によらない住居侵入・捜索・押収の禁止
36条 拷問及び残虐な刑罰の絶対的禁止
38条 黙秘権、自白のみによる有罪認定の禁止
39条 遡及処罰の禁止、二重処罰(一事不再理)の禁止

例題

例題1(基本)

問題

次の文中の空欄に適する語句を答えよ。

日本国憲法39条は、実行の時に適法であった行為については刑事上の責任を問われないという( ① )の禁止と、同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問われないという( ② )の原則を定めている。

解答・解説を見る

39条前段は、行為の時には適法だった行為を、後から作られた法律にさかのぼって処罰することを禁止する規定であり、これを遡及処罰の禁止(事後法の禁止)といいます。39条後段は、同一の犯罪について確定判決の後に重ねて刑事責任を問われないという原則であり、これを二重処罰の禁止(一事不再理)といいます。

答え:① 遡及処罰 ② 二重処罰(一事不再理)

例題2(標準)

問題

身体の自由に関する記述として、正しいものを1つ選べ。

  1. 憲法33条により、いかなる場合であっても、逮捕には裁判官の発する令状が必要である。
  2. 憲法38条の黙秘権は、被疑者・被告人が黙秘すれば、そのことによって無罪になることを保障するものである。
  3. 憲法36条は、公務員による拷問及び残虐な刑罰を、公共の福祉による例外を認めず絶対的に禁止している。
  4. 憲法39条の二重処罰の禁止とは、一つの事件で同時に複数の罪に問われることを禁止するものである。
解答・解説を見る

1は誤りです。33条は、現行犯として逮捕される場合を除いて令状が必要であると定めており、現行犯逮捕は令状なしで行うことができる例外にあたります。

2は誤りです。黙秘権は「自己に不利益な供述を強要されない」権利であり、黙秘したこと自体が無罪の理由になるわけではありません。

3は正しい記述です。36条は「絶対にこれを禁ずる」と定めており、拷問及び残虐な刑罰の禁止には例外が認められません。

4は誤りです。二重処罰の禁止(一事不再理)は、同一の犯罪について確定判決を経た後に重ねて刑事上の責任を問われないという意味であり、一つの事件で複数の罪に問われること自体を禁止するものではありません。

答え:3

例題3(応用)

問題

次のADの規定と、それぞれが定める内容アエの組み合わせとして正しいものを選べ。

A 31条 B 35条 C 38条 D 39条

ア 令状によらない住居の捜索・押収の禁止 イ 適正手続きの保障(罪刑法定主義の根拠) ウ 遡及処罰・二重処罰の禁止 エ 黙秘権及び自白のみによる有罪認定の禁止

解答・解説を見る

31条は法律の定める手続きによらなければ刑罰を科せられないという適正手続きの保障を定めており、罪刑法定主義の根拠規定の一つとされます(イ)。35条は住居、書類及び所持品についての捜索・押収に令状を必要とすることを定めています(ア)。38条は自己に不利益な供述を強要されない黙秘権と、自白のみでは有罪にできないことを定めています(エ)。39条は遡及処罰の禁止と二重処罰の禁止を定めています(ウ)。

答え:A-イ、B-ア、C-エ、D-ウ

例題4(発展)

問題

生徒Xと生徒Yが、身体の自由に関する条文について次のように話している。誤っている発言をしているのはどちらか、理由とともに答えよ。

X「31条の適正手続きの保障は、罪刑法定主義、つまり『どんな行為が犯罪となり、どんな刑罰が科せられるかは、あらかじめ法律で定められていなければならない』という原則の根拠の一つとされているんだよ。」

Y「39条の二重処罰の禁止は、一つの事件で窃盗罪と器物損壊罪のように、複数の罪状で起訴されることを禁止する規定なんだ。」

解答・解説を見る

Xの発言は正しい内容です。31条は、刑罰を科す手続きが法律で定められていなければならないという適正手続きの保障を定めており、罪刑法定主義の根拠規定の一つとされています。

Yの発言は誤りです。39条の二重処罰の禁止(一事不再理)は、「同一の犯罪について、確定判決を経た後に重ねて刑事上の責任を問われない」という意味であり、一つの事件を複数の罪状で起訴すること(併合罪など)を禁止するものではありません。この2つを混同する誤りは非常に多いので注意が必要です。

答え:Yが誤り。二重処罰の禁止は「同一の犯罪について確定判決後に重ねて責任を問われない」という意味であり、一つの事件を複数の罪状で起訴することを禁止するものではない。

確認問題

問題

2004年に制定された、犯罪の被害者やその家族の権利・利益を守るための法律の名称を答えよ。

答え

犯罪被害者基本法