日本国憲法と基本的人権 / 精神の自由と身体の自由

精神の自由とその判例

要点整理

精神の自由は、人間の内面の働きにかかわる自由権であり、19条の思想及び良心の自由、20条の信教の自由、21条の表現の自由、23条の学問の自由の4つに分けて整理される。この単元では、条文の内容そのものに加えて、政教分離をめぐる2つの重要判例(津地鎮祭訴訟・愛媛玉串料訴訟)を、結論の違いまで含めて正確に区別できるようにすることが最大のポイントになる。

思想及び良心の自由(19条)

19条は「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と定める。心の中で何を考え、何を信じるかという内心にとどまる限り、それがどのような内容であっても完全に自由であり、国家がこれに介入したり、特定の考え方を強制したりすることは許されない。この自由は、内心にとどまる限り他者の権利・利益と衝突することがないため、精神の自由の中でも例外的に、公共の福祉によっても制約されない絶対的な保障を受けるとされる。

信教の自由と政教分離(20条)

20条1項は信教の自由(宗教を信じる自由、信じない自由、宗教的行為を行う自由など)を保障するとともに、いかなる宗教団体も国から特権を受けてはならないと定める。さらに20条3項は「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と定めており、89条は宗教上の組織・団体の使用・便益・維持のために公金を支出してはならないと定める。これらの規定から導かれるのが政教分離の原則であり、国家は特定の宗教を援助することも、弾圧することもなく、宗教に対して中立の立場を保たなければならない。

もっとも、国や地方公共団体の行為の中には、宗教とまったく無関係とは言い切れないものも多い(伝統行事への関与など)。そこで最高裁は、ある行為が政教分離に違反するかどうかを判断する基準として、目的効果基準を用いてきた。次の2つの判例は、同じ目的効果基準を使いながら、結論が正反対になった代表例であり、必ず区別して覚える必要がある。

津地鎮祭訴訟(最高裁1977年)

事件の経緯

三重県津市が、市立体育館の起工式を神式(神道形式)の地鎮祭として挙行し、その挙式費用を市の公金から支出した。これに対し、市議会議員が、この公金支出は政教分離の原則に反する違法な支出であるとして、市長個人に損害の賠償を求める住民訴訟を起こした。

争点

体育館の起工式に神道形式の地鎮祭を採用し、その費用を公金から支出したことが、20条3項の禁止する「宗教的活動」、および89条の禁止する宗教団体への公金支出にあたるか。

判決・決定の内容

最高裁大法廷は、政教分離違反の有無を判断する基準として目的効果基準を示したうえで、地鎮祭は起工にあたっての一般的な習俗的行事としての性格が強く、その目的は世俗的なものであり、効果も特定の宗教(神道)を援助・助長・促進するもの、あるいは他の宗教を圧迫するものとは認められないとして、憲法の政教分離の原則に**違反しない(合憲)**と判断した。

なぜテストで狙われるか

「目的効果基準」という基準の名称と、この事件が最終的に「合憲」という結論になったことが、セットで問われる。次の愛媛玉串料訴訟と結論が逆になるため、2つの判例を対比させる問題が定番の出題パターンになっている。

愛媛玉串料訴訟(最高裁1997年)

事件の経緯

愛媛県が、靖国神社の例大祭や、みたま祭などの祭礼に際して、玉串料・献灯料といった名目で、複数年にわたり県の公金を支出した。住民が、この公金支出は政教分離の原則に違反する違法な支出であるとして、当時の知事らを相手に住民訴訟を起こした。

争点

靖国神社という特定の宗教法人の祭礼に、県が公金を支出したことが、20条3項の「宗教的活動」、および89条の禁止する公金支出にあたるか。津地鎮祭訴訟と同様に、目的効果基準にあてはめて判断された。

判決・決定の内容

最高裁大法廷は、目的効果基準を用いて判断した結果、玉串料等の奉納は社会的儀礼の域を超えた宗教的意義を持つ行為であり、その効果も特定の宗教団体(靖国神社)への関心を呼び起こし、これを援助・助長・促進するものと認められるとして、憲法20条3項及び89条に**違反する(違憲)**と判断した。

なぜテストで狙われるか

津地鎮祭訴訟と「同じ目的効果基準」を用いながら、「結論が違憲」となった点が最大のポイントである。両者の結論を逆に覚えてしまう誤り(津地鎮祭=違憲、愛媛玉串料=合憲としてしまう)が非常に多いため、繰り返し出題される。

2つの判例の対比

津地鎮祭訴訟(1977年) 愛媛玉串料訴訟(1997年)
主体 三重県津市 愛媛県
行為 体育館起工式を神式で挙行し、費用を公費支出 靖国神社等の例大祭に玉串料を公金から支出
用いられた基準 目的効果基準 目的効果基準
最高裁の結論 合憲(政教分離違反にあたらない) 違憲(政教分離違反にあたる)

集会・結社・表現の自由(21条)と検閲の禁止

21条1項は、集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障する。さらに21条2項は「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と定め、検閲を絶対的に禁止している。検閲とは、公権力が表現内容を発表前にあらかじめ審査し、不適当と認めるものの発表を禁止することをいい、これは公共の福祉を理由とする例外も認められない、例外のない禁止であるとされる。

この関連で頻出するのが、教科書検定制度である。教科書検定は、教科書として使用するための内容を国(文部科学省)が事前に審査する制度であり、この制度が21条2項の禁止する「検閲」にあたるのではないかとして争われてきた(いわゆる教科書裁判)。これに対し最高裁は、検定に不合格となっても、その図書を一般の書籍として発行・出版すること自体は禁止されないことなどを理由に、教科書検定は憲法の禁止する「検閲」にはあたらないと判断している。「教科書検定=検閲で違憲」という誤答が非常に多いので注意する。

学問の自由(23条)

23条は「学問の自由は、これを保障する」と定める。ここでいう学問の自由には、学問研究の自由、研究発表の自由、教授(学説を教える)の自由が含まれるとされる。さらに、これらの自由を大学において実質的に保障するための制度的な裏づけとして、大学の自治(教員人事・施設管理・学生管理などについて大学の自主性を尊重すること)が認められている。大学の自治はあくまで学問の自由を支えるための制度であって、学問の自由そのものと同一視しないよう注意する。

例題

例題1(基本)

問題

次の文中の空欄に適する語句を答えよ。

思想及び良心の自由は、内心にとどまる限り、他の人権とは異なり、公共の福祉によっても制約されない( ① )な保障を受けるとされる。一方、信教の自由をめぐっては、国やその機関の行為が政教分離の原則に違反するかどうかを判断するために、最高裁は( ② )と呼ばれる基準を用いてきた。

解答・解説を見る

19条の思想及び良心の自由は、内心の自由にとどまる限り他者の権利と衝突しようがないため、精神の自由の中でも例外的に、公共の福祉による制約も受けない絶対的な保障を受けるとされます。

政教分離違反の有無を判断する基準としては、行為の目的が宗教的意義を持つか、効果が特定の宗教を援助・助長・促進し、または圧迫・干渉することになるかを見る「目的効果基準」が用いられてきました。

答え:① 絶対的 ② 目的効果基準

例題2(標準)

問題

政教分離をめぐる最高裁判例に関する記述として、正しいものを1つ選べ。

  1. 津地鎮祭訴訟では、最高裁は目的効果基準を用いて、市の公金支出を政教分離の原則に違反する違憲な支出と判断した。
  2. 愛媛玉串料訴訟では、最高裁は目的効果基準を用いて、県の公金支出を政教分離の原則に違反しない合憲な支出と判断した。
  3. 津地鎮祭訴訟では、最高裁は体育館起工式の地鎮祭を、世俗的な習俗的行事であるとして、合憲と判断した。
  4. 愛媛玉串料訴訟では、玉串料の奉納は宗教的意義を持たない社会的儀礼にすぎないとして、合憲と判断された。
解答・解説を見る

1は誤りです。津地鎮祭訴訟の結論は「合憲」であり、「違憲」ではありません。

2は誤りです。愛媛玉串料訴訟の結論は「違憲」であり、「合憲」ではありません。

3は正しい記述です。最高裁は、体育館起工式の地鎮祭について、宗教的意義の薄れた一般的な習俗的行事であり、目的は世俗的、効果も特定宗教の援助・助長にあたらないとして、合憲と判断しました。

4は誤りです。最高裁は、玉串料の奉納を「社会的儀礼の域を超えた宗教的意義を持つ行為」と評価しており、その結果、違憲と判断しています。「社会的儀礼にすぎない」という評価は津地鎮祭訴訟の理由づけに近いものであり、愛媛玉串料訴訟の判断内容とは異なります。

答え:3

例題3(応用)

問題

次のA・Bの記述と、それぞれが示す判例の組み合わせとして正しいものを選べ。

A 県が靖国神社の例大祭に玉串料を公金から支出したことが、政教分離の原則に違反する(違憲)と判断された。

B 市が体育館の起工式を神式で行い、その費用を公金から支出したことは、政教分離の原則に違反しない(合憲)と判断された。

ア 津地鎮祭訴訟 イ 愛媛玉串料訴訟

  1. A-ア B-イ
  2. A-イ B-ア
  3. A-ア B-ア
  4. A-イ B-イ
解答・解説を見る

Aの「県」「靖国神社」「玉串料」「違憲」というキーワードは愛媛玉串料訴訟(イ)を、Bの「市」「体育館の起工式」「神式の地鎮祭」「合憲」というキーワードは津地鎮祭訴訟(ア)を指しています。主体が「県」か「市」か、対象が「靖国神社の例大祭」か「体育館の起工式」か、結論が「違憲」か「合憲」かを、セットで正確に覚えておく必要があります。

答え:2(A-イ、B-ア)

例題4(発展)

問題

生徒Xと生徒Yが、政教分離に関する判例について次のように話している。誤っている発言をしているのはどちらか、理由とともに答えよ。

X「津地鎮祭訴訟も愛媛玉串料訴訟も、どちらも目的効果基準という同じ基準を使って判断されているんだね。」

Y「目的効果基準を使った結果、津地鎮祭訴訟は合憲、愛媛玉串料訴訟も同じく合憲と判断されたんだよ。」

解答・解説を見る

Xの発言は正しい内容です。津地鎮祭訴訟(1977年)、愛媛玉串料訴訟(1997年)は、いずれも最高裁が政教分離違反の有無を判断する際に、目的効果基準を用いています。

Yの発言は誤りです。同じ目的効果基準を用いていても、あてはめの結果は異なり、津地鎮祭訴訟は「合憲」、愛媛玉串料訴訟は「違憲」という、正反対の結論になっています。「同じ基準を使った=同じ結論になる」とは限らない点が、この分野で最も間違えやすいポイントです。

答え:Yが誤り。目的効果基準は共通だが、津地鎮祭訴訟は合憲、愛媛玉串料訴訟は違憲というように、結論は異なる。

確認問題

問題

教科書検定制度が憲法21条2項の禁止する「検閲」にあたるかどうかが争われた裁判で、最高裁が示した判断の結論を、理由も含めて簡潔に説明せよ。

答え

最高裁は、教科書検定は「検閲」にはあたらないと判断した。検定に不合格になっても、その図書を一般の書籍として出版すること自体は禁止されないことなどが理由とされている。