日本国憲法と基本的人権 / 経済の自由と平等権

経済の自由(居住移転・職業選択・財産権)

要点整理

経済の自由(経済的自由権)は、個人が自分の意思で経済活動を行うことを保障する自由権であり、22条の居住・移転及び職業選択の自由と、29条の財産権の保障の2つが中心となる。経済の自由は、精神の自由と異なり、公共の福祉によってより強い制約(政策的制約)を受けることが認められている点が、この単元の最大のポイントである。

居住・移転及び職業選択の自由(22条)

22条1項は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と定める。居住・移転の自由は、自分の住みたい場所に住み、自由に移動できる自由である。職業選択の自由は、自分が従事する職業を自由に選ぶことができる自由であり、選んだ職業を実際に営むこと(営業の自由)も、この規定によって保障されると解されている。

財産権の保障(29条)

29条1項は「財産権は、これを侵してはならない」と定め、個人が自己の財産を所有し、自由に使用・収益・処分できることを保障する。もっとも、29条2項は「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」と定めており、財産権については、他の自由権に比べても、法律による制約を受けることが憲法自身によってあらかじめ明記されている点が特徴的である。さらに29条3項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」と定め、公共のために私有財産を用いる場合(公用収用など)には、国が正当な補償を行わなければならないとしている。

経済の自由と「公共の福祉」による、より強い制約

精神の自由と経済の自由を比べると、経済の自由は、社会全体の利益の実現や、経済的な弱者の保護、経済的格差の是正といった政策的な目的のために、精神の自由よりも強い制約(政策的制約)を受けることが認められる、とされている。これは、経済活動が社会の他の構成員や社会全体に与える影響が大きく、無制限な自由競争が弱者切り捨てなどの弊害を生みやすいためである。

この違いを説明する考え方が、二重の基準論である。二重の基準論とは、精神的自由を規制する法律は、民主政治の過程そのものを支える重要な自由を制約するものであるから、裁判所が厳格な基準で違憲審査を行うべきであるのに対し、経済的自由を規制する法律は、社会・経済政策に関する専門的な判断を要することが多く、国会・内閣といった政治部門の裁量を尊重して、より緩やかな基準で審査すべきである、とする考え方である。

精神の自由と経済の自由の比較

精神の自由 経済の自由
具体例 思想・良心、信教、表現、学問など 居住・移転、職業選択、財産権など
制約の性質 民主政治の過程を支える自由であり、制約は必要最小限にとどめるべき 社会全体の利益や弱者保護のため、より強い政策的制約を受ける
違憲審査の厳格さ(二重の基準論) 厳格な基準で審査すべき 立法府の裁量を尊重し、比較的緩やかな基準で審査すべき

経済の自由をめぐる主な違憲判決

経済の自由も無制限に規制されてよいわけではなく、規制の目的や手段が不合理であれば、違憲と判断されることがある。

薬事法距離制限違憲判決(最高裁1975年)

事件の経緯

かつての薬事法は、薬局を新たに開設する際、既存の薬局との間に一定の距離を保つこと(適正配置基準)を許可の条件としていた。この距離制限のために薬局開設の許可を得られなかった申請者が、この規定は22条1項の職業選択の自由(営業の自由)を侵害するとして争った。

争点

薬局開設に距離制限を課すことが、職業選択の自由に対する必要かつ合理的な規制であるといえるか。

判決・決定の内容

最高裁は、この距離制限の目的が、薬局の乱立による過当競争を防ぎ不良医薬品の供給を防止するという消極的・警察的な目的にあるとしたうえで、その目的を達成する手段として、薬局の立地に距離制限を設けることは必要かつ合理的な規制とはいえないとして、この規定を22条1項に**違反する(違憲)**と判断した。

なぜテストで狙われるか

経済的自由(職業選択の自由)を規制する法律が違憲とされた代表例であり、「距離制限」という具体的な規制の内容と、条文(22条)、結論(違憲)がセットで問われる。

森林法共有林分割制限違憲判決(最高裁1987年)

事件の経緯

森林法は、共有となっている森林について、持分価額が2分の1以下しかない共有者からの分割請求を認めない(単独所有への分割を制限する)と規定していた。この規定によって分割請求を認められなかった共有者が、規定の合憲性を争った。

争点

森林の細分化を防止するという立法目的のための共有林分割制限が、29条の財産権の保障に対する必要かつ合理的な制約といえるか。

判決・決定の内容

最高裁は、森林の細分化を防止するという立法目的自体には一定の合理性を認めつつも、分割そのものを一律に制限するという手段は、目的を達成するために必要な限度を超えており、財産権に対する必要かつ合理的な制約とはいえないとして、この規定を29条2項に**違反する(違憲)**と判断した。

なぜテストで狙われるか

財産権(29条)を規制する法律が違憲とされた代表例であり、薬事法距離制限違憲判決(22条)とあわせて、「経済的自由に対する規制も無制限に許されるわけではない」ことを示す例として出題される。条文が22条ではなく29条である点に注意する。

例題

例題1(基本)

問題

次の文中の空欄に適する語句・条文番号を答えよ。

憲法( ① )条1項は、居住、移転及び職業選択の自由を保障している。また、憲法( ② )条は財産権を保障しており、その2項では、財産権の内容は( ③ )の福祉に適合するように法律で定めると規定されている。

解答・解説を見る

居住・移転及び職業選択の自由は22条1項に、財産権の保障は29条に定められています。29条2項は、財産権の内容を法律で定める際の基準として「公共の福祉」を挙げています。

答え:① 22 ② 29 ③ 公共

例題2(標準)

問題

経済の自由に関する記述として、正しいものを1つ選べ。

  1. 経済の自由は、精神の自由と同様に、公共の福祉による制約を一切受けない絶対的な自由である。
  2. 二重の基準論とは、経済的自由を規制する法律の方を、精神的自由を規制する法律よりも厳格な基準で審査すべきとする考え方である。
  3. 薬事法距離制限違憲判決では、最高裁は薬局開設の距離制限を22条の職業選択の自由に違反しないとして合憲と判断した。
  4. 財産権は29条2項により、その内容が公共の福祉に適合するように法律で定めると憲法自身が明記している点で、他の自由権とは異なる特徴を持つ。
解答・解説を見る

1は誤りです。経済の自由は、精神の自由に比べてより強い政策的制約を受けるとされており、絶対的な自由ではありません。

2は誤りです。二重の基準論は、精神的自由を規制する法律の方を、経済的自由を規制する法律よりも厳格な基準で審査すべきとする考え方であり、記述が逆になっています。

3は誤りです。薬事法距離制限違憲判決では、最高裁は距離制限を22条1項の職業選択の自由に違反するとして違憲と判断しました。

4は正しい記述です。29条2項は、財産権の内容を公共の福祉に適合するように法律で定めると明記しており、この点が財産権の特徴の一つとされます。

答え:4

例題3(応用)

問題

次のA・Bの記述と、それぞれが示す判例の組み合わせとして正しいものを選べ。

A 森林の共有者について、持分の少ない者からの分割請求を認めない規定が、29条の財産権を侵害するとして違憲と判断された。

B 薬局開設にあたっての距離制限規定が、22条の職業選択の自由を侵害するとして違憲と判断された。

ア 薬事法距離制限違憲判決 イ 森林法共有林分割制限違憲判決

  1. A-ア B-イ
  2. A-イ B-ア
  3. A-ア B-ア
  4. A-イ B-イ
解答・解説を見る

Aの「森林の共有者」「分割請求」「29条」というキーワードは森林法共有林分割制限違憲判決(イ)を、Bの「薬局開設」「距離制限」「22条」というキーワードは薬事法距離制限違憲判決(ア)を指しています。どちらも経済的自由に関する違憲判決ですが、対象となる自由(22条の職業選択の自由か、29条の財産権か)が異なる点を正確に区別する必要があります。

答え:2(A-イ、B-ア)

例題4(発展)

問題

生徒Xと生徒Yが、経済の自由に関する二重の基準論について次のように話している。誤っている発言をしているのはどちらか、理由とともに答えよ。

X「二重の基準論は、精神的自由を規制する法律は厳格に、経済的自由を規制する法律は立法府の裁量を尊重して緩やかに審査すべきという考え方だよ。」

Y「経済的自由の規制が緩やかに審査されるのは、経済的自由が精神的自由よりも人権として価値が低いとされているからなんだ。」

解答・解説を見る

Xの発言は正しい内容です。二重の基準論は、精神的自由の規制立法をより厳格に、経済的自由の規制立法をより緩やかに審査すべきとする考え方です。

Yの発言は誤りです。経済的自由の規制がより緩やかに審査される理由は、「人権としての価値が低いから」ではなく、経済的自由の規制には社会・経済政策に関する専門的な判断が必要になる場面が多く、裁判所よりも国会・内閣といった政治部門の判断を尊重すべき場面が多いためとされています。価値の優劣の問題ではない点に注意が必要です。

答え:Yが誤り。経済的自由への規制が緩やかに審査されるのは、人権としての価値が低いからではなく、政策的判断を要する場面が多く立法府の裁量を尊重すべきだからとされる。

確認問題

問題

薬事法距離制限違憲判決において、最高裁が違憲と判断した規制の内容と、その規制が違反するとされた憲法の条文をあわせて答えよ。

答え

薬局を新たに開設する際に、既存の薬局との間に一定の距離を置くことを求める規制(距離制限)が、22条1項の職業選択の自由に違反するとして違憲と判断された。