数学II / いろいろな式

不等式の証明(相加平均・相乗平均、絶対値を含む不等式)

要点整理

1. 不等式の証明の基本方針(復習)

前のページ「恒等式と等式・不等式の証明」で学んだとおり、$A\geq B$ を証明するときの基本方針は、

$A-B\geq0$

を示すことでした。実数の2乗が常に0以上であること($t^2\geq0$)を使って、$A-B$ を「(何か)$^2$」を含む形に変形するのが典型的な手順です。このページでは、この基本方針を土台にして、特によく使われる2つのパターン——相加相乗平均の不等式と、絶対値を含む不等式——について、さらに詳しく学びます。

まずは、基本方針をシンプルな例で確認しておきましょう。任意の実数 $x$ について、

$x^2-4x+5>0$

が成り立つことを示すには、左辺を平方完成します。

$x^2-4x+5=(x-2)^2-4+5=(x-2)^2+1$

$(x-2)^2\geq0$ なので、両辺に $1$ を加えると $(x-2)^2+1\geq1$。$1>0$ なので、左辺は必ず $0$ より大きくなります。このように「平方完成して(何か)$^2$の形を作る」ことが、差を取る方針の中心的なテクニックです。

2. 相加相乗平均の不等式

$a\geq0,\ b\geq0$ のとき、

$a+b\geq2\sqrt{ab}\quad(\text{等号成立は }a=b\text{ のとき})$

が成り立ちます。これは前のページで証明した $\dfrac{a+b}{2}\geq\sqrt{ab}$ の両辺を2倍しただけの式で、同じ関係を表しています(証明の要点だけ振り返ると、$a\geq0,b\geq0$ のとき $(\sqrt a-\sqrt b)^2\geq0$ を展開して整理すると得られるのでした)。左辺の $a+b$ は相加平均の2倍、右辺の $2\sqrt{ab}$ は相乗平均の2倍になっています。

この不等式が威力を発揮するのは、次のような場面です。

典型的な使い方:2つの正の数 $X,\ Y$ の積が定数(一定の値)になるとき、$X+Y$ の最小値を求めたい場合。

手順は次の通りです。

  1. 与えられた式を、正の数 $X$ と $Y$ の和 $X+Y$ の形で見る。
  2. 積 $XY$ を計算し、それが(変数によらず)定数になっていることを確認する。
  3. $X+Y\geq2\sqrt{XY}$ を使って、$X+Y$ の下限(最小値の候補)を求める。
  4. 等号成立条件 $X=Y$ を使って、実際にその値が達成できる($X=Y$ を満たす変数の値が定義域内に存在する)ことを確認する。

例えば、$x>0$ のとき $9x+\dfrac{1}{x}$ の最小値を考えてみます。$X=9x,\ Y=\dfrac1x$ とおくと、$x>0$ より $X>0,\ Y>0$ です。積を計算すると、

$XY=9x\times\frac1x=9$

となり、$x$ の値によらず一定の値 $9$ になります。したがって、

$9x+\frac1x\geq2\sqrt9=2\times3=6$

が成り立ち、等号は $X=Y$、すなわち $9x=\dfrac1x$ のときに成立します。これを解くと $x^2=\dfrac19$、$x>0$ より $x=\dfrac13$ です。$x=\dfrac13$ は定義域($x>0$)に含まれるので、実際に最小値 $6$ が達成されます。

注意点:この不等式が使えるのは、あくまで $a\geq0,\ b\geq0$ のときだけです。負の数が混ざっている場合はそのままでは使えません。また、最小値を求める問題では、不等式を示すだけでなく、等号が実際に成立する変数の値が存在することまで確認して初めて「最小値である」と言えることも重要なポイントです。

3. 絶対値を含む不等式

実数 $a$ の絶対値 $|a|$ は、$a\geq0$ のとき $|a|=a$、$a<0$ のとき $|a|=-a$ と定義され、数直線上での原点からの距離を表すのでした。この定義から、次の性質が成り立ちます。

$-|a|\leq a\leq|a|,\qquad |a|^2=a^2$

この2つの性質は、絶対値を含む不等式を証明するときによく使われます。特に重要なのが、次の三角不等式です。

三角不等式:任意の実数 $a,\ b$ について、

$|a+b|\leq|a|+|b|\quad(\text{等号成立は }ab\geq0\text{ のとき})$

証明:$|a+b|\geq0$、$|a|+|b|\geq0$ なので、どちらも0以上の数です。0以上の数どうしでは、大小関係と2乗の大小関係が一致するので($X\geq0,\ Y\geq0$ のとき $X\leq Y\iff X^2\leq Y^2$)、2乗どうしを比較すれば十分です。

$(|a|+|b|)^2-|a+b|^2$

を計算します。$|a+b|^2=(a+b)^2$、$|a|^2=a^2,\ |b|^2=b^2$ であることを使うと、

$(|a|+|b|)^2-(a+b)^2=(a^2+2|a||b|+b^2)-(a^2+2ab+b^2)$

$a^2$ と $b^2$ が消えるので、

$=2|a||b|-2ab=2(|ab|-ab)$

ここで、上で確認した性質 $-|x|\leq x\leq|x|$ を $x=ab$ に適用すると $|ab|\geq ab$ が常に成り立つので、

$(|a|+|b|)^2-(a+b)^2=2(|ab|-ab)\geq0$

これは $(|a|+|b|)^2\geq(a+b)^2=|a+b|^2$ を意味し、両辺とも0以上なので、

$|a|+|b|\geq|a+b|$

が示されました。等号が成り立つのは $|ab|=ab$、すなわち $ab\geq0$(同符号、または一方が0)のときです。

この三角不等式を使うと、関連する不等式も導けます。$a=(a-b)+b$ と書き直して三角不等式を適用すると、

$|a|=|(a-b)+b|\leq|a-b|+|b|$

両辺から $|b|$ を引くと、

$|a|-|b|\leq|a-b|$

という不等式が得られます。$a$ と $b$ を入れ替えても同じ議論ができるので $|b|-|a|\leq|a-b|$ も成り立ち、あわせると

$\bigl||a|-|b|\bigr|\leq|a-b|$

となります。このように、三角不等式は「うまく式を分解して当てはめる」ことで、いろいろな絶対値不等式の証明の土台として使えます。

例題

例題1(基本)

問題

すべての実数 $x$ について、次の不等式が成り立つことを証明せよ。

$x^2-4x+5>0$

解答・解説を見る

不等式の証明の基本方針にしたがい、左辺を変形して、それが必ず正であることを示します。左辺を平方完成します。

$x^2-4x$ を $(x-\bigcirc)^2$ の形に近づけるために、$-4$ を2で割った $-2$ を使うと、

$x^2-4x=(x-2)^2-2^2=(x-2)^2-4$

したがって、

$x^2-4x+5=(x-2)^2-4+5=(x-2)^2+1$

ここで、$(x-2)^2$ は実数の2乗なので、$x$ がどんな実数であっても

$(x-2)^2\geq0$

が成り立ちます。両辺に $1$ を加えると、

$(x-2)^2+1\geq1$

$1>0$ なので、$(x-2)^2+1\geq1>0$、すなわち

$x^2-4x+5>0$

が、すべての実数 $x$ について成り立つことが証明できました。(この式は $x=2$ のときに最小値 $1$ をとるだけで、実際に $0$ になることはないので、等号なしの $>$ が正しく使えます。)

例題2(標準)

問題

$x>0$ のとき、次の不等式を証明せよ。また、等号が成り立つときの $x$ の値を求めよ。

$9x+\frac1x\geq6$

解答・解説を見る

$x>0$ より、$9x>0$ かつ $\dfrac1x>0$ なので、どちらも正の数です。そこで、相加相乗平均の不等式 $A+B\geq2\sqrt{AB}$($A\geq0,B\geq0$)を、$A=9x,\ B=\dfrac1x$ として使います。

まず、積 $AB$ を計算します。

$AB=9x\times\frac1x=9$

$x$ が約分されるので、この積は $x$ の値によらず一定の値 $9$ になります。相加相乗平均の不等式に代入すると、

$9x+\frac1x\geq2\sqrt{9x\times\frac1x}=2\sqrt9$

$\sqrt9=3$ なので、

$9x+\frac1x\geq2\times3=6$

が証明できました。

等号成立条件:等号が成り立つのは $A=B$ のとき、すなわち

$9x=\frac1x$

このときです。両辺に $x$($>0$)をかけると、

$9x^2=1\ \Longrightarrow\ x^2=\frac19$

$x>0$ より、$x=\dfrac13$(負の解 $x=-\dfrac13$ は $x>0$ の条件に反するので除きます)。$x=\dfrac13$ は定義域 $x>0$ の中に含まれるので、このとき実際に等号が成立し、左辺の最小値は $6$ です。

(検算)$x=\dfrac13$ を代入すると、$9\times\dfrac13+\dfrac{1}{1/3}=3+3=6$ となり、確かに等号が成り立っています。

例題3(応用)

問題

実数 $a,\ b,\ c$ について、要点整理で証明した三角不等式 $|x+y|\leq|x|+|y|$ を用いて、次の不等式を証明せよ。

$|a-c|\leq|a-b|+|b-c|$

解答・解説を見る

三角不等式 $|x+y|\leq|x|+|y|$ は、任意の実数 $x,\ y$ について成り立つのでした。この式の $x,\ y$ に、うまく式を当てはめることを考えます。

$x=a-b,\ y=b-c$ とおくと、

$x+y=(a-b)+(b-c)$

かっこを外して整理すると、$-b$ と $+b$ が打ち消し合うので、

$x+y=a-b+b-c=a-c$

となります。つまり、$a-c$ は $x=a-b$ と $y=b-c$ の和として表せます。

そこで、三角不等式 $|x+y|\leq|x|+|y|$ に、この $x=a-b,\ y=b-c$ を代入します。

$|(a-b)+(b-c)|\leq|a-b|+|b-c|$

左辺は、上で確認したとおり $(a-b)+(b-c)=a-c$ なので、

$|a-c|\leq|a-b|+|b-c|$

が証明できました。この不等式は、$a,\ b,\ c$ を数直線上の点(または距離)と考えると、「$a$ から $c$ までの距離は、$a$ から $b$ を経由して $c$ に行く距離の合計以下である」という、図形における三角不等式(三角形の1辺の長さは他の2辺の長さの和以下である)と同じ内容を表しています。

練習問題

問題

実数 $a,\ b$ について、次の不等式を証明せよ。

$|a|-|b|\leq|a-b|$

答え

$a=(a-b)+b$ と書き直し、三角不等式 $|x+y|\leq|x|+|y|$ を $x=a-b,\ y=b$ として使うと、

$|a|=|(a-b)+b|\leq|a-b|+|b|$

両辺から $|b|$ を引くと、

$|a|-|b|\leq|a-b|$

が得られます。