漢文 / 漢文読解

重要漢字・語彙(頻出の読み・意味)

要点整理

漢文には、日本語の助詞・助動詞にあたる働きをする漢字が数多く登場します。これらは1つの字が複数の意味・読み方を持つことが多く、同じ字でも文中での位置や前後の語によって意味が変わります。ここでは、特に出題頻度の高い重要語を、働きごとにグループ分けして整理します。

同じ字でも読み方によって意味が大きく変わるため、丸暗記するのではなく「この字がどこにあるか」「前後にどんな語があるか」に注目して判断する練習をしましょう。

指示語・代名詞のグループ

「これ・それ・あれ」など、名詞の代わりに使われる語です。

漢字 読み 意味・用法
之 これ 前に出た事物・内容を指す代名詞。「〜の」(連体修飾)、まれに「ゆく」(動詞)の意味にもなる
是・此 これ 「これ」「この」を表す指示語。「是」は断定の「これは〜である」の主語としてもよく使われる
其 そ・それ 「その」「それ」。文頭で「そもそも」という発語(語調を整える語)として使われることもある
彼 かれ 「あれ」「かの」。遠くのものや、話題になった人物を指す
孰 たれ・いづれ(か) 「誰が」「どちらが」。疑問・反語の主語になることが多い
何 なに・なん・なんぞ 「何」「どうして」。名詞としても、理由・方法を問う副詞としても使われる

之が「これ」ではなく「の」と読まれるのは、前後が体言(名詞)+之+体言という形で、所有・修飾の関係になっているときです。たとえば「天下之人」であれば「天下の人」と読み、「これ」とは読みません。

接続・関係を表すグループ

文と文、句と句をつなぐ働きをする語です。

漢字 読み 意味・用法
而 しかシテ・しかルニ、(多くは置き字) 「そして」(順接)、「しかし」(逆接)。文中で動詞と動詞をつなぐときは置き字になることが多い
則 すなはチ 「〜すると、そこで」。前の内容を受けて、その結果・帰結を導く
且 かツ 「その上」「〜しようとする」(再読文字的に使われる場合もある)
与 と、〜よりは 「〜と」(並列)。比較の文では「与其(〜よりはむしろ)」の形でも使われる
若 もシ、ごとシ 「もし〜ならば」(仮定)、「〜のようだ」(比況)

場所・対象・比較・受身を示すグループ(前置詞的な語)

日本語の「に・を・より・よりも」にあたる働きをします。

漢字 読み 意味・用法
於・于・乎 ニ・ヲ・ヨリ・よりも(多くは置き字) 動作の行われる場所・対象・比較の基準・受身の相手などを示す
自・従 よリ 「〜から」。時間・場所の起点を示す
以 もつテ 「〜を用いて」「〜によって」「〜のために」。理由・手段・材料を示す

於・于・乎がなぜ「置き字になることが多い」のかという具体的なルールは、次の単元「置き字・特殊な読み方」で詳しく学びます。ここではまず、これらの字が「に・を・より」に近い意味を持つ、ということを押さえておきましょう。

多義の動詞的重要語

1字でいくつもの意味を持ち、句法(構文)の骨組みにもなる重要な字です。

漢字 読み 意味・用法
為 なス・たリ・ため二・る/らル 「〜する」(動詞)、「〜である」(断定)、「〜のために」(理由・目的)、「〜される」(受身)
如・若 ごとシ・しク 「〜のようだ」(比況)、「〜に及ぶ」(比較。多くは否定形で「しかず」の形)
使・令・教・遣 しム 「〜させる」(使役)。「AをしてBせしむ」の形で使われる
見・被 る・らル 「〜される」(受身)
所 ところ 動詞の前について「〜すること・もの」という体言(名詞句)を作る
者 もの・は 「〜する人・もの」、または文の主題を示す「〜は」

文末に置かれる助字

文末について、断定・強調・疑問・詠嘆などの語気(ニュアンス)を添える字です。

漢字 読み 意味・用法
也 なり 断定「〜である」を表す。文末以外に、文中で「や」と読み主題を強調することもある
矣 (置き字) 断定・完了を強める。単独では読まないことが多い
焉 (置き字)、これニ 断定・完了を強める。まれに「於是(これに)」の意味で使われ、その場合は読む
耳・已 のみ 「〜だけだ」(限定)
哉 かな 「〜だなあ」(詠嘆)
乎・与・邪・耶 か・や 疑問・反語を表す

例題

例題1(基本)

問題

次の『論語』の一節を読んで、傍線部「之」が指している内容を答えよ。

子曰、「学而時習㆑之、不亦説乎。」 (子曰はく、「学びて時に之を習ふ、亦説ばしからずや。」と。)

解答・解説を見る

「之」は代名詞で、前に出てきた事物・内容を指すのが基本の働きです。この文では、直前に「学」(学ぶ)という動詞があり、「之を習ふ」で「それを復習する」という意味になっています。つまり「之」は、具体的な一語を指しているのではなく、「学んだ内容(学問・教え)」という前の文脈全体を受けています。

現代語訳すると「先生がおっしゃった、『学んでは適切な時期に(それを)復習する、なんと喜ばしいことではないか』」となり、「之」=「学んだこと」と補って読むと意味が通ります。

答え:直前に出てきた「学んだこと(学問・教え)」を指す。

例題2(標準)

問題

次の文の傍線部「則」の働きとして最も適当なものを、下の①〜④から選べ。

学而不レ思則罔、思而不レ学則殆。 (学びて思はざれば則ち罔し、思ひて学ばざれば則ち殆ふし。)

① 「そして」という単純な並列を表す ② 「しかし」という逆接を表す ③ 前の内容(条件)を受けて、その結果を導く ④ 疑問を表す

解答・解説を見る

「則」は、前の部分で述べられた条件・仮定を受けて、「そうすると(その結果)〜になる」という帰結を導く働きをする字です。この文では、「学びて思はざれば」(学んでも自分の頭で考えなければ)という条件を受けて、「則ち罔し」(そうすると、ものごとの筋道がわからなくなる)という結果につながっています。後半の「思ひて学ばざれば則ち殆ふし」(考えるだけで学ばなければ、そうすると独断におちいって危険だ)も同じ構造です。

①の「そして」は「而」や「与」に近い働き、②の「しかし」は逆接の「而」に近い働きで、いずれも「則」の説明としては不十分です。④の疑問は「乎」「与」などの文末助字の働きなので、ここでは当てはまりません。

答え:③

例題3(応用)

問題

次の文について、傍線部①「於」の働きを説明し、この一文全体の意味を答えよ。

苛政猛㆑於虎也。 (苛政は虎よりも猛しなり。)

解答・解説を見る

「於」は、場所・対象・比較の基準・受身の相手など、いくつかの働きを持つ字です。この文では、直前に形容詞「猛し」(荒々しい、恐ろしい)があり、「於」の後ろに比較の対象となる「虎」が置かれています。形容詞のあとに「於+比較の対象」が続く形は、比較の句法の代表的なパターンで、「Aは、Bより(も)〜だ」という意味になります。

したがって、ここでの「於」は比較の基準を示す働きをしており、書き下し文では「虎よりも」の「より(も)」という送り仮名として現れ、「於」自体は声に出して読まれません(置き字)。

この一文全体は、「苛酷な政治(重税や過酷な取り立てなど)は、人を食い殺す虎よりも恐ろしいものだ」という意味になります。これは、孔子が墓の前で泣く婦人から、家族を虎に殺されてもなお苛酷な政治を敷く土地を離れられない事情を聞いた、という故事(『礼記』)にもとづく有名な一節です。

答え:「於」は比較の基準(〜より・〜よりも)を示す置き字。全体の意味は「苛酷な政治は、人を食い殺す虎よりも恐ろしいものだ」ということ。

確認問題

問題

次の文の傍線部「以」の意味として最も適当なものを答えよ。

以㆑子之矛、陷㆑子之盾、何如。 (子の矛を以て、子の盾を陷さば、何如。)

答え

「〜を用いて・〜によって」(手段)。「あなたの矛を用いて、あなたの盾を突き通したらどうなるか」という意味。